アンデッドアンラック×ストリートファイター6 コラボ記念:戸塚慶文×スト6開発陣 スペシャル対談
対戦格闘ゲーム『ストリートファイター6』にて、週刊少年ジャンプ連載『アンデッドアンラック』(作:戸塚慶文)とのコラボアイテムが本日より登場!!
コラボ期間:2024年12月21日(土)17:00~2025年2月1日(土)
コラボ期間内にログインしたプレイヤー全員に、漫画のコマを元にしたスタンプと称号がプレゼントされるぞ!
また、アバタークリエーションで以下のレシピコードを入力すると、アンディと風子をイメージしたコラボレシピを入手できる。アンディや出雲風子の姿になってワールドツアーやアバターバトルを楽しんでみよう!
■アンディ
アバターレシピコード:UDUL_SF6_ANDY
■出雲風子
アバターレシピコード:UDUL_SF6_FUUKO
※:アバターレシピ(コード)の配布は、2025年2月1日(土)23:59までとなります。
▲アンディには黒のパンツ、風子はニット帽、スタジャン、デニムを装備すればよりそれらしい外見に!
戸塚先生は週刊少年ジャンプの目次コメントなどで度々格闘ゲームについて触れているほどの格ゲー好き。『アンデッドアンラック』は『ストリートファイター』に影響を受けた作品でもあり、ゲームと同様に様々な国籍のキャラクターや舞台となる国が登場している。
そこで今回の親和性バッチリなコラボを記念して、戸塚先生と『ストリートファイター6』の中山貴之ディレクターと薮下剛史ゲームプランナーによる対談を実施!
▲写真左:中山貴之(なかやま たかゆき)ディレクター/写真右:薮下剛史(やぶした つよし)ゲームデザイナー
また、対談前には戸塚先生が目次コメントで触れていた縁で、元プロゲーマーのストーム久保さんと戸塚先生による対戦も行われた。その対戦内容も動画で紹介しているぞ! ぜひ戸塚先生の実力をその目で確かめていただければ。
きっかけは目次コメント! コラボの制作秘話
──今回のコラボに至った経緯を教えてください。
戸塚 最初にカプコンさんから打診があったと聞きました。僕がジャンプの目次コメントで『ストリートファイター』のことをよく書いていたので、それを拾ってくれたのでしょうか。
中山 はい、ストリートファイターがお好きだということがSNSでも話題になっていたのも目にしておりまして、ありがたいと思いコラボできないかなと打診致しました。
薮下 時期的には『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』のコラボ(2024年1月配信)が終わったあとですね。
戸塚 聞いたときは恐れ多い感じでした。「いいのか…!?」って。お話いただいたのだったら、ぜひということで。
──アンディと風子の再現アバターを作成するにあたり苦労したポイントなどありますか?
中山 実は最初に戸塚先生がアンディと風子のキャラクターレシピのスクリーンショットを送っていただいたんですよ。そのままでもよかったんですが、カプコンの方でそれを元に少し調整したものを戸塚先生に確認していただきました。
戸塚 その送ったアンディや風子ちゃんのアバターでワールドツアーをプレイしていました。ニット帽とジャージと手袋があると風子を作っちゃうんですよね。『モンハンNow』でも風子スタイルにしています。
カプコンさんが調整されたものを見て、僕が作ったものよりアンディがいかつくなっているなど、いい感じの塩梅でした。レシピが公開されたらそっちに変更します(笑)。
──アバターを使った対戦動画のファイトスタイルはアンディがベガ、風子が春麗になっています。アンディはなぜベガを選んだのでしょうか。
薮下 アンディのファイトスタイルは飛び回ったり、いきなりバーン!と技を放ったりと、アクロバティックな印象を受けたので、それに近い動きをするのはベガかなと思ったんです。風子は作中で功夫の型を使っていたので、そこは春麗が一番素直かなと。
戸塚 僕はキンバリーしか使えないのでワールドツアーでもキンバリースタイルでやっていたんですが、アンディのアバターでキンバリーの動きだとちょっと気持ち悪い感じでした(笑)。
中山 くねくねしますもんね(笑)。
──スタンプや称号はどのように選定されたのでしょうか?
薮下 最初に「セリフが短くて伝わりやすいコマ」というのを中心に選んで、その中からさらによりキャラクターのインパクトが強いコマをピックアップしていきました。例えばファンのコマは格闘ゲーマー的にすごく使いやすいので、選んだ理由のひとつでもありますね。ユーザーの方がどう使うかっていうところも観点に置いています。
あと個人的にはリップのコマがすごい好きなシーンで。個人的な思い入れと読者の皆さんもこのシーンは間違いないだろうなということもあり、提案させていただきました。最終的にはこちらで選んだ候補の中から編集部さんに選定してもらったものが採用されています。
戸塚 これまで知り合いとバトルハブに行くことがなくスタンプを使う機会がなかったのですが、これを機に使ってみようかと思っています。
中山 フォトモードでも貼れますのでぜひ!
戸塚先生が歩んだストリートファイター歴とその影響
──ではここから戸塚先生のストリートファイターに対する思いなどを聞かせていただければ。まずはいつ頃から『ストリートファイター』をプレイされているのでしょうか。
戸塚 ざっとストリートファイター歴をお話ししますと、自分が幼稚園くらいの時に、幼馴染のお母さんが誕生日プレゼントでスーパーファミコンの『ストリートファイターII』を買ってくれたんです。その時はまだ「技が出てくれるとうれしいくらい」で、なんとなく遊んでいる感じでしたね。
それから、PlayStation2の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』が発売した時に、ハイタニさん(※1)のまことを動画で見てかっこいいなと思いつつも、実際にプレイするとうまく操作ができず敷居の高さを感じて遠ざかっていました。
『ストリートファイターIV』もちょろっとだけ触ったんですが、難しくて…。でも『ストリートファイターV』から目押しとかの0Fコン(※2)のような操作がなくなったので、これならできるなと思い本格的にプレイすることになったんです。それでランクマッチやセットプレイ(※3)の練習なども始めましたね。その貯金があったので、『ストリートファイター6』は最初からすごく楽しめました。
『スト6』は最初僕ひとりだけでやっていたんですけど、ジャンプの授賞式でお会いした、『グリーングリーングリーンズ』を連載していた寺坂(研人)さんもプレイされていたので、「一緒にやりませんか?」と誘いました。はじめて定期的にプレイしてくれるフレンドができましたね。
『ストV』までは誘ったら触れてはくれる人はいるけど、なかなか続かない状況も多かったんです。でも『スト6』からモダン操作(※4)のおかげで楽しんでくれる知り合いも増えてくれて。ただ技の性能とか細かい部分をまだわからない状態で楽しんでいるので、自分からすると「なんで今あれ出さないんだよ」「ゲージ温存して次のラウンドに持ち越そう」と思っちゃうことがあります。でもあまり余計なこと言わないで見守っておこうって(笑)。
※1 ハイタニ:REJECT格闘ゲーム部門所属ストリーマー。格ゲー五神と称されるプレイヤーのひとり。
※2 0Fコン(ゼロフレコン):猶予が0フレームしかなく、1フレーム(1/60秒)でも入力が遅れると繋がらない超シビアなコンボ。
※3 セットプレイ:「この状況のあとにはこの行動を行う」といったような、パターン化させた行動を取り、起き攻めなどに利用すること。
※4 モダン操作:ワンボタンで必殺技が出せ、ボタンを連打するだけで強力なアシストコンボも繰り出せる画期的な操作モード。
中山 モダン操作を取り入れたのは、遊べない理由になることを全部潰したかったというのがあります。例えば「必殺技が出せないので遊べない」という理由なら、ワンボタンで必殺技を出せるようにしようと。
1人でも長く遊べるワールドツアーモードもその一環ですね。「対戦格闘ゲームは面白そうだけど、どうやったら楽しめるかわからない」という部分を解決できるようにしたくて。攻略サイトや配信者の動画を見て学ぶっていうのもありますが、ゲーム側からそういったものが提供されたことがあまりなかったんですよ。ならクリアする頃には波動拳が出せるようになっているくらいのストーリーモードは必要だと思い作ったのがワールドツアーです。最初は社内でめちゃくちゃ反対されましたけど(笑)。
お金払って買っていただいくものですから、もし対戦が合わなかったとしても、「ワールドツアーが面白かったから買ってよかった」と感じてもらえるといいなという思いもありました。個人的に育成とかのレベリング要素が好きだったというのもありますが。
▲ワールドツアーはメトロシティを舞台に、プレイヤーの分身となるアバターを操作して物語を進めていくモード。世界各地を巡ってレジェンドファイターに弟子入りし、ファイトスタイルや必殺技の習得、レベルを上げて装備を強くしてなど、RPG要素が盛り込まれている。『ストリートファイター』や『ファイナルファイト』に登場したキャラクターたちと交流できるのも魅力のひとつ。
戸塚 ワールドツアーのおかげで続けられてるっていうのはあると思いますね。あ、ワールドツアーと言えば、メトロシティに空母あるじゃないですか。
中山 バイロン・テイラーですね。
戸塚 以前ニューヨークへ出張に行ったときに見つけて、「あっこれか! スト6だ!」って。
中山 逆なんですけどね(笑)。
戸塚 初海外だったんですけど、初メトロシティでもありました(笑)。
▲ガイルのステージでもある空母バイロン・テイラー。ニューヨークにはイントレピッド海上航空宇宙博物館という母艦を利用した博物館があり、甲板には航空機が展示されている。
──戸塚先生が『スト6』のランクマッチではキンバリーで早々にマスターランク(※5)に到達した腕前とお聞きしています。
戸塚 でもマスターレート(※6)は最大でも1700いけるかどうかくらいです。
薮下 1700は結構強いほうですよ!
※5 マスターランク:ランクマッチの最高ランク。ROOKIE→IRON→BRONZE→SILVER→GOLD→PLATINUM→DAIMOND→MASTERの順で上がっていく。
※6 マスターレート:MRと略されることが多い。マスターランク内の戦闘力のようなものでシーズンごとに1500からスタートする。MR1500以上を維持するのが上級者の壁とも言われる。
──以前のシリーズではどのようなキャラクターを使われていたのですか?
戸塚 『ストIV』では アドンで、『ストV』では かりん(神月かりん)から初めて是空を使うようになりました。
中山 結構テクいキャラがお好きなんですね。
戸塚 アドンはせんとすさん(※7)の影響です。せんとすさんの強ジャガーキックを出している動画を見て「これならできる!」と思って使い始めました。そしたら本当に勝てたので、味をしめちゃったんです。
※7 せんとす:ゲーム実況者。格闘ゲームの実況プレイ動画で人気を博す。『ストIV』の実況プレイ動画は7年間続けていた。
中山 せんとすさんの名前が出てくるとは思わなかった(笑)。アドンは『ストリートファイターZERO』の時からジャガーキックが強かったですね。
戸塚 アドンが無敵技を持っていたから、ピンチになったらぶっ放すっていう癖が付いちゃって。でもキンバリーは無敵技がないので、「格ゲーってこんな大変なんだな」って痛感しました…(笑)。
──かなりストリートファイターに浸かられていたのですね。
戸塚 今でも自分が趣味としてよく見ているものが、大会やストリーマーの配信なので、ジャンプの巻末コメントで話すことが思いつかない時は、だいたい『ストリートファイター』の話をしてしまいますね。だから、「格闘ゲームの話ばかり書いてるな、他のこともしゃべらなくちゃ」と思っています(笑)。
『ストリートファイター』はキャラクターのディテールとか構え、勝利ポーズや演出、セリフ、バックボーンまですごい好きで、「こういった要素が全部揃って“キャラクター”になるんだろうな」って教えてもらっている感じがあります。
プレイしていて「ここがいい!」って思うこともちょくちょくあって、例えば豪鬼のドライブインパクトの腕の引きとか。他のキャラクターのドライブインパクトはヒット直後にまだ腕が伸び切っていない・伸びている途中がある中で、豪鬼はすぐに拳を引いて次の攻擊に備えていて。そういう表現の違いが好きなところですね。すごい勉強させてもらっています。
あと格闘ゲームの取扱説明書が大好きで、昔は『CAPCOM VS. SNK 2』とか『MARVEL VS. CAPCOM 2』の説明書に書いてあるキャラクターをよく模写していました。
▲ドライブインパクトのヒット直後、多くのキャラクターは攻擊が伸び切った状態や振りかぶった状態となっているが、豪鬼の場合はヒットした瞬間に腕を引いた状態になっているのだ。モーションひとつひとつにもキャラクター性が感じられる。
「技名を一文字変えて…」
──『ストリートファイター』と『アンデッドアンラック』ではどういった流れでキャラクターを作っていくのでしょうか。
中山 『ストリートファイター』は世界中のキャラクターが登場するというのが大きなポイントなので、出身国のバランスが大事になります。そのため一番最初に出身国と格闘技をいくつか決めて、それを組み合わせるという作業を行うんです。例えば中東のキャラクターとパルクールを組み合わせるとか。そこから具体的な内容を詰めていく形ですね。これは『ストII』の頃から脈々と受け継がれているやり方でもあります。
戸塚 『アンデッドアンラック』のキャラクターの場合、その格闘技の部分が能力になっている感じかもしれません。出身国を決めて、その国の文化を取り入れて、能力を決めて、その能力に似合ったキャラクターを作っていく形です。
『ストリートファイター』に影響を受けて自分の漫画でもいろんな国のキャラクターを出したいと思っていましたが、出身国を分けて本当によかったです。いろいろな舞台を描かなくてはいけなくなるため、物語に広がりが持てますね。
▲様々な国籍と能力の登場人物たち。ジャンプコミックス19巻の作者コメント欄では「もしストリートファイターに出会えなかったら、こんなに色んな国籍のキャラが出る漫画にならなかったかもなぁとも思います」とコメントを残している。
当時の編集さんには、「自分のキャラクターが格闘ゲームになったらこんな技を出す、というふうに考えてみたらどうか」とアドバイスされたことがありました。例えば「波動拳コマンド入れたらこんな技が出るキャラかな」みたいな考え方をしながらキャラクターを作っていくと、何かしらいい形になりますね。
あとはステージも大事だな、っていうのもすごく感じます。強敵とここ一番で戦う舞台がしっかりしているとやはり絵になるので。7巻にビルの側面で戦っているシーンがあるんですけど、あれは『ヴァンパイア』から来ているんです。
中山 ああ、『ヴァンパイア セイヴァー(※8)』ですか! 人間ではなくダークストーカーズなので、人間のルールとは異なった状態で戦えるっていうのをやっていたんです。
※8:2D対戦格闘ゲーム『ヴァンパイア』シリーズの3作目。伝承に登場するモンスターをモチーフにしたキャラクターたちと、美麗で滑らかなアニメタッチのグラフィックが大きな特徴のシリーズ。
戸塚 画面の奥が地面になっているんですよね。
中山 はい、重力を無視してキャラクターたちが当たり前のように戦っているというシチュエーションになっています。ただバレッタっていうキャラクターは人間なんですけど、そこはうっかり…(笑)。
▲『ヴァンパイア セイヴァー』以降に登場する「TOWER OF ARROGANCE」というステージが、7巻のバトルの舞台モチーフになっていた! 格闘ゲームファンもこれには気付かなかったのでは…!?
戸塚 なので格闘ゲームからインスピレーションを受けることも結構あります。ただ受けすぎ感はあって、特に拳法周りは『ストリートファイター』を参考にしまくっちゃっています。
薮下 そうなんですか?
中山 確かに。鉄山靠はかりんも使っていましたしね。
戸塚 八極拳を描いている漫画とかを見て技自体は知っているのもあるんですけど、「これストリートファイターのオリジナル技じゃないかな…?」とも思って、『アンデッドアンラック』では小賢しく技名を一文字だけ変えたりしました。本当に申し訳ないというか…。
中山 いやいや、ぜんぜん(笑)。
▲格闘ゲームではおなじみの流派でもある八極拳。『ストリートファイター』ではユンやヤンが使用する「絶招歩法」「揚炮」「穿弓腿」といった技は、『アンデッドアンラック』では「絶招歩砲」「陽炮」「潜弓腿」として登場している。
──技名をどのように決められているのですか?
戸塚 コンパクトかつあんまりかっこつけにならないような、その技の内容が文字だけで分かるものだけにしています。他社さんのタイトルになるのですが、某RPGのキャラクターの技名が漢字二文字で、それがかっこいいなと思っていたこともあって。あと技名が長いと写植の場所を取ってしまうということもあり、短く要点だけ絞ったものを考えています。
中山 『ストリートファイター』ではバトル班に技名の案を出してもらって、最終的にほぼ自分が決めています。あと技名にも設定があって、リュウの波動拳や昇龍拳、竜巻旋風脚といった技は師匠の剛拳から教わった、代々受け継がれている技になります。
でもリュウ自身は技名に無頓着なので、リュウ自身が考案した技は「上段側頭蹴り」とか「上段二連撃」とか単に動作を説明するだけの技名になっているんですよ。そういったバックストーリーも少し感じとれるように決めています。
戸塚 は~なるほど。じゃあケンの技名は結構師匠のセンスに乗っかってくれているんですね。
中山 乗っかってくれているのもあるし、そもそもケンは漢字が好きなので、自分で積極的に付けちゃうところもあります。「“疾風”も“迅雷”もかっこよくね? 疾風迅雷脚でいくぜ!」みたいな。
薮下 僕はラシードの「スーパー・ラシード・キック」が好きですね。
中山 ラシードが自分で考えた一番かっこいい技名(笑)。
薮下 わかりやすいですよね。自分の名前入れちゃうところが好き(笑)。
中山 他にも『ストV』でかりんの技名を付けるときに、『ZERO3』の資料でかりんの「紅蓮拳」から出せる技(紅蓮楔)のふりがなが振っていなく、正しい読み方がわかる人もいなかったんですよ。それできっとそのまま「くさび」と読むんだろうなと思って「ぐれんくさび」にしたとか。そういうのも結構あります。
それとターゲットコンボ(※9)は以前“ターゲットコンボ1”のように数字で区別されていたんですけど、『ストV』から技名を付けるようにしました。例えば大会の実況で「ターゲットコンボ1が出た!」って言ってもわかりにくいじゃないですか。それで動作と技名と一致させたかったんです。
※9 ターゲットコンボ:通常攻擊や特殊技を特定のルートで出すことで発生するコンボ。例えば『スト6』ではリュウで中P→弱K→強Kと繋ぐと「不破三連撃」、ケンで中K→中K→強Kと繋ぐと「閃光連脚」というターゲットコンボになる。
戸塚 今は実況で技名を言ってくれるからわかりやすいですよね。
中山 でも海外では飛び道具は「Fireball」で、対空技は「Dragon Punch」って全部通称で言うんですよ。必殺技の英語名もキャラクターによっては日本語名と違うことがありますが、あれは専門のスタッフに提案を受けて変えています。
戸塚 そうだ、英語のことでひとつ聞いていいですか? ガイルのソニックのジャスト入力(※10)で「シューティング!」って言うじゃないですか。でも英語ボイスだと「パーフェクト!」って言うのは「シューティング」だと伝わらないからです?
中山 そうですね。あとセリフでジャストかどうか判断材料にする人もいるので、そういったセリフが言語によって変わってくる場合もあります。「サマーソルトキック」も海外では昔「フラッシュキック」だったんですけど、現在は統一しました。
あとベガって海外名がM.バイソン(※11)なのでややこしく、今回のベガは記憶喪失というのもあって新しい名前で日米統一しようと思ったんです。でも結局うまくいかなくて違うままになりました。
※10 ジャスト入力:ソニックブームのコマンド(←溜め→+P)で、→とPを同時に入力すると性能が強化される。
※11 ベガの海外名:シャドルー四天王はサガット以外日本版と海外版で名前が入れ替わっており、【(日)ベガ→(米)M.バイソン、(日)M.バイソン→(米)バルログ、(日)バルログ→(米)ベガ】となっている。
戸塚 じゃあ海外ではバイソンのままなんですね。ベガは一時期「ジェネラル」って呼んでたんでしたっけ?
中山 はい、ベガを「ジェネラル」や「ディクテイター」、バイソンを「ボクサー」と呼んでいたこともありました。やはりもう30数年も続いているシリーズなので、新しい呼び方は浸透しないですね。
薮下 戸塚先生はキャラクターの名前ってどういう決め方をされているんですか?
戸塚 最初の2~3キャラは意識しないで決めていた気はするんですけど、後から能力名をもじっていることに気付いて。そこから結果的に能力もじりになりました。うまくハマったのはシンプルにアンディですかね。あと“UNTOUCHABLE”でタチアナもよかったかなと思っています。
──開発の方々が『アンデッドアンラック』でお気に入りのキャラやエピソードはありますか?
中山 シェンが好きですね。かっこいいし、キョンシーになって能力がなくなったところとかもキャラが立っていていいな~と思いました。
薮下 自分はUMAスプリング編です。今日も大阪の本社から東京へ来る時にスプリング編のところおさらいしてたんですけど、うるうるしてしまうくらいでした。普段漫画とか映画とかで泣くことあまりないんですが、スプリング編は来るものがありますね。敵なんだけど実はちょっと寂しい過去があるっていう、そういう部分が僕は『アンデッドアンラック』を読んで好きになったところです。
戸塚 実は…スプリング編で「不抜(アンドロー)」という能力が出てくるんですが、その不抜はリュウの「確固不抜(かっこふばつ)」から来ています。最初技名を見た時に「不抜ってなんだ?」と思って調べたら、揺るがないとか固い意思とか強い心を指す言葉だったので、使わせていただきました。
薮下 マジっすか(笑)。
中山 まさかリュウがきっかけだったとは…。
▲友才が持つ否定能力の「不抜」。元となった「確固不抜」は「強い意思を持って動じない心」などの意味を持つ四文字熟語で、『ストV』のリュウが使うVトリガーIIの技名に使われている。
キャストと是空のよもやま話
戸塚 あと少し脱線しますが、クリードっていう軍人キャラの髪型をループ時に変えようと思い、アメリカ出身だからガイルの髪型にしたんですよ。「ガイルはここまでゴツくないから大丈夫かな…」って。ただその後、アニメのキャスティングで声優さんが…。
中山 安元洋貴さんですね(笑)。
戸塚 はい、ガイルと同じで。さすがにスタッフさんに「意図して汲んでくれたんですか?」って聞いたら偶然だったみたいで。そこからストリートファイターの声優さんがどれくらいアニメの中にいるんだろうって気になり出しました。
薮下 結構いますよね。
中山 フェイロン(中村悠一氏)が主人公ですから。
戸塚 それ一番最後に知ったんですよ! 「あの“ホワチョー!”が中村さんだったんだ!?」って。当時聞いていて全然気付かなかったです。あと僕が一番好きな是空の飛田展男さん。UMA スポイル役だということを収録当日まで知らなくて、現場で聴いて「今の声誰ですか?」と確認したら飛田さんだったという…。すぐに「ファンだって伝えて!」と言いました(笑)。自分の生活時間の中にストリートファイターが入り過ぎてて、何を見るにしても結び付けている感じがありますね。
中山 ちなみに自分の前の職場でアニメ化されているタイトルありまして、その中の人気キャラクターが飛田さんだったので、その繋がりで是空も飛田さんにお願いしたという経緯があります。
戸塚 そうだったんですか! 是空の若と老の演じ分けがすごいよかったです。
▲戸塚先生のお気に入りキャラクターである是空。プレイヤーキャラクターとしては『ストV』が初登場。バトル中に老状態と若状態を切り替えられるのが特徴で、老状態は遠距離、若状態は近距離を得意とする。
中山 是空はうちのデザイナーのベンガスと2人で作ったキャラクターなんですが、『ストリートファイターZERO2』のエンディングに2カットしか出ていなかったんです。それで「これはもう自由にできるな!」って話を2人でして、変身できるようにしてみようと考えました。そうしたら当時の上司が「意外性がほしいから、変身したらソドムになるのどう?」と言われまして。さすがに抵抗しました(笑)。
戸塚 (笑)。
中山 ソドムにも申し訳ないし、誰も望んでないですよって。そんなこともあり若返りという要素を入れました。そこから『ストライダー飛竜(※12)』のネタも少し取り入れることで、意外性は出せましたね。老の居合斬りみたいなモーションは、ストライダー飛竜のサイファーを見立てています。
※12 ストライダー飛竜:ステージクリア型の2Dアクションゲーム。2014年にはリブート版も発売された。
戸塚 通常技が強い若と、無敵技と弾(飛び道具)を撃てる老の両方ができたのがすごいよかったですね。
中山 特にアールさん(※13)はコンボ中に若と老を切り替えていくとか、作っている側の上を行くプレイをしてもらえました。あとは残心というか、技を出したあとの動作を全部解説してくれました。
薮下 アールさんが残心全部見るっていう配信をしてくれてありがたかったです。
※13 アール:esportsキャスター。かつては格ゲープレイヤーとしても活躍しており、『スト5』では是空がメインキャラクター。『スト6』では自動実況機能の開発・監修と音声を担当している。
戸塚 各技ごとに残心が全部違うんですよね。
中山 あれはちょっとやりすぎました(笑)。
薮下 僕はカプコンの入社前だったんですが、「こだわりすぎていてこの会社やべえな」って思いましたよ(笑)。
中山 あと武神流ってちょっとややこしくて、マキ(源柳斎真紀)の源柳斎と、是空の本流の2流派あるんですが、『ファイナルファイト2(※14)』の設定と『ストZERO2』の設定が違っていたんですよ。
※14 ファイナルファイト2:スーパーファミコン用ソフトで発売された、『ファイナルファイト』の続編。操作キャラクターとして源柳斎真紀が初登場した作品。その後マキは『ストリートファイターZERO3↑(アッパー)』や『CAPCOM VS. SNK 2』に参戦している。
戸塚 あ~はいはい。
中山 加えて『キャプテンコマンドー(※15)』というゲームに“ショウ(翔)”という忍者が出てくるんですが、彼は武神流の末裔で。さらにショウの前に“ゴウ(號)”という末裔がいるので、継承者の順番で言うと是空→ガイ→ゴウ→ショウというのは決まっているんです。他にもマキのお姉さん(源柳斎麗奈)もいたりで、結構ややこしくて。それを『ストV』の時に必死に整理しました(※16)。ワールドツアーではキンバリーとのやりとりでゴウの話も出てくるようになっていますね。
※15 キャプテンコマンドー:ベルトスクロールアクションゲーム。『ファイナルファイト』に近いゲーム性だが、ダッシュ操作や、敵からロボットや射撃武器を奪って攻擊ができるのが特徴。
※16 当初は「第37代目源柳斎がガイとマキの師匠」とされていたが、『ストV』では「源柳斎は是空に代を譲り、武神流第38代目となった是空がガイとマキの師匠」と改められることになった。武神流についてはもともと忍術が主体の流派であるが、是空が様々な体術の技を取り入れたことで、より実践的な戦闘手段として昇華されたという設定になっている。
▲『スト6』のバトルハブ(オンラインロビー)のゲームセンターでは定期的にゲームが入れ替わる筐体があり、『ストII』『ファイナルファイト』『キャプテンコマンドー』といった昔の作品を遊ぶことができる。
戸塚 『スト6』の追加キャラで是空ないしマキが出たらうれしいなって思っていたんですが、豪鬼の瞬獄殺の“抜山蓋世(ばつざんがいせい)”の文字を見て、「あ、是空が出ることはなくなったんだな」と…。
中山&薮下 (笑)。
戸塚 あれは漫画の『RYU FINAL(※17)』から来ている演出と分かってはいつつも、「抜山蓋世使っちゃったか…」って。そもそもキンバリーが武神流だから、同じ武神流のキャラは難しいかなとは考えてました。もし流派違うならワンチャンとも思っていましたが…。
中山 マキのトンファーならいけるかも、って(笑)。
戸塚 でもみんなが望んでいるキャラクターいっぱいいますからね。四天王もまだ残っているし…。ただただ楽しみに待ちます。
※17 RYU FINAL:1997~1998年にゲーメスト(新声社)で連載されていた『STREET FIGHTER III RYU FINAL -闘いの先に-』(作:中平正彦)。中平氏によるストリートファイターシリーズのコミカライズはファンからの人気が高く、ゲームに逆輸入されたキャラクター(神月かりん)や設定も存在するほど作品にも影響を与えている。
▲瞬獄殺のヒット時にKOが確定している場合、「一瞬千撃 抜山蓋世 鬼哭啾啾 故豪鬼成」の文字が出る演出が発生する。是空には「抜山蓋世」という技があるため、この文字演出と被ったことで戸塚先生は是空参戦の可能性は途絶えたと諦めた模様。
何故か言っちゃう「ごめん」
──本日対談前に戸塚先生とストーム久保さん(※18)で対戦されておりましたが、対戦の提案は戸塚先生の方からだったと聞いております。
※18 ストーム久保:『ストIV』時代より名を馳せたプレイヤー。JeSU公認プロライセンスを持っているが、現在はプロゲーマーを引退している。『ゲーミングお嬢様』(少年ジャンプ+)に登場する久保園嵐子はストーム久保氏がモチーフ。
戸塚 「もしやれるなら」っていうくらいの感じだったんですが、開発の方の「あまり自信がないかも…」っていう話を事前に聞いて。じゃあ対戦はなくても大丈夫です、と伝えていたら今日まさかの久保さんがいて(笑)。
中山 開発はあまりこういう場で対戦しないようにしているんですよ。開発メンバーは基本的に大会には出られませんし、いろいろ制約がありまして。
戸塚 なるほどですね。
中山 それで我々より数段強い、怪しいメガネの男を呼びました(笑)。ジャンプの目次コメントで触れていただいたので(※19)。
※19 目次コメント:「ストーム久保さん!毎回動画楽しく観ています!これからも変わらず応援します!」(週刊少年ジャンプ2024/5/20号より)
戸塚 なんか不思議な感じですね、普段配信で見ている方と対面で会うのは…。久保さんって動画の中で1つの技を決めたり、「今回はこれでやっていく」「これは強いかわからないけど試してみよう」とかコンセプト決めてやられているじゃないですか。勝ち意識というよりは、「面白いんじゃね?」ってやる感じのところが好きですね。
友達にも、もし動画を見るってなったら最初はうまいプレイヤーのを見るより、「遊んでいるような配信を見るといいよ」と勧めています。カツカツのセットプレイを行っている動画よりも、「この技をずっとこすっていいんだよ」って笑いながらやってくれる人のほうが「自分でもできるかな?」って思えるので。そういう時に久保さんの動画がおすすめしやすいですね。
▲久保さんは戸塚先生から希望のあったエドモンド本田とJP以外は、キャラクターをランダムで選択して対戦を行っていた。ちなみに久保さんが対戦相手ということは完全なサプライズで、開発陣以外は現場まで誰も知らない状態だったのだ。
──お互い対戦されてどうでしたか?
戸塚 なんでも使えるんだな~っていうのと、ドライブインパクト遠慮してくれてるのかなって(笑)。やられたら反応できないので…。
久保 戸塚先生はストリートファイター歴が長いとお聞きしてはいたのですが、想像以上に格闘ゲーマーの動きをしていて正直びっくりしました。最初はモダン操作かと思っていたら、クラシック操作かつマニアックなセットプレイも使ってきて。それを使われることを考えていなかったので普通に負けましたね。そこから「だったらやってやるよ!」となり(笑)、普通に挑ませていただきました。
戸塚 最初の本田戦で「動画の時みたいに百貫落としで来てくれないかな? 肘構えてるんだけどな~」って考えてたんですけど、真正面から攻められてしまいました。対戦できてすごい楽しかったです。
▲エドモンド本田の「スーパー百貫落とし」という上空から攻擊する強力な技への対策として、戸塚先生は「肘落とし」という技で迎撃しようという作戦だったようだが、久保さんはコンボ以外でスーパー百貫落としを使わず、地上から攻めていく立ち回りだった。
薮下 対戦を見ていて戸塚先生が格闘ゲームをだいぶやられているなというが伝わりました。格ゲープレイヤーって倒しきれるタイミングでコマンド操作をミスした時とかに「ごめん」って言っちゃうですけど、戸塚先生も「ごめん」って自然に出ていて(笑)。何故か相手に謝るんですよね。勝手ながら親近感がわきました。
戸塚 『スト6』をオフラインで対戦したのは初めてなんですけど、それでも「ごめん」って出るんだなって思いました。多分オンラインだったらぼそっと「(その操作)やってねえ」って言ってそうですけど。
薮下 格ゲープレイヤーの「やってない」は「やっている」ですね(笑)。
中山 開発でも就業時間が終わるとみんなで対戦するんですが、列の向こうから「やってねえ」とか「押してねえ」とかよく聞こえてきますよ(笑)。
──最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
中山 『ストリートファイター』と『アンデッドアンラック』が好きな方って属性が似ているような気がしているんです。今回親和性の高いスタンプや称号を作らせてもらえましたし、両方が盛り上がってもらえるとうれしいですね。ぜひ読者の皆さんも遊んでいただければ。
戸塚 もしこれをきっかけに『スト6』を初めてプレイしてくれる読者の方がいたら、「あれ、だいぶストリートファイターネタ多くね?」って気付くと思います。「これ春麗の技そのまま使ってない?」みたいな。そういった照らし合わせが楽しめるかもしれません(笑)。もちろん『スト6』は楽しいし、モダン操作もあるので、少しでもユーザーが増えてくれるとうれしいです。
中山 最終的にどちらかというと『スト6』の宣伝をしてくれているのでは…(笑)。
薮下 アンバサダーですね(笑)。
おわり
アンデッドアンラック
戸塚慶文/集英社「週刊少年ジャンプ」連載/既刊23巻
ストリートファイター6
対応ハード:PlayStation5/PlayStation4/XBOX SERIES X|S/Steam
ジャンル:対戦格闘
レーティング:CERO C
©戸塚慶文/集英社 ©CAPCOM
撮影/和田篤志